俳句になるやならざるや(四)
2008-01-06


対馬康子句集『天之』富士見書房刊、著者四十代の作品。現在「天為」の編集長であり、昔から大学俳句会の先輩であったが、俳句はあまり知らなかったと愕然とした。邑書林から『セレクション俳人・対馬康子集』が出て居るが、手元に無かったため、三十年前の「原生林」にのっている作品を読んだりした。昔の句の方が断然面白い。

  一片の地図超えてゆく蜥蜴の歩

  物蔭に砂山の如桜あり

と言う句が出て来た。書いてあることは現実ではないが、物に沿って俳句が書かれているのが面白い。今の対馬康子を読んでみると、当時の空想なような着想がないのである。三十年前と同じ俳句を書いていても仕方が無いのではあるが。

 『天之』から

  曖昧に海折り返し泳ぎけり

  花冷えの硬貨を落とす望遠鏡

  ありふれた海を畳んでいる扇子

  白服の胸を開いて干されけり

 鈴木太郎句集『秋顆』角川書店刊、こちらは著者十八年間の作品である。四十代から六十代である。この年月だと発表された句も莫大なもので、三百五十八句に凝縮する作業は大変ものだったと推察される。『秋顆』より、

  放生会前の人押す膝頭

  鯛提げてゆく大雪の三鷹駅

  黴を噴く八幡太郎の幟旗 

  自然薯を掘りたる穴に足入れて

 私も昭和六十三年に『虎刈』を出したので、約十九年間句集を出していない。膨大な作業が待っている。

        雷魚72号から


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