一片の地図超えてゆく蜥蜴の歩
物蔭に砂山の如桜あり
と言う句が出て来た。書いてあることは現実ではないが、物に沿って俳句が書かれているのが面白い。今の対馬康子を読んでみると、当時の空想なような着想がないのである。三十年前と同じ俳句を書いていても仕方が無いのではあるが。
『天之』から
曖昧に海折り返し泳ぎけり
花冷えの硬貨を落とす望遠鏡
ありふれた海を畳んでいる扇子
白服の胸を開いて干されけり
鈴木太郎句集『秋顆』角川書店刊、こちらは著者十八年間の作品である。四十代から六十代である。この年月だと発表された句も莫大なもので、三百五十八句に凝縮する作業は大変ものだったと推察される。『秋顆』より、
放生会前の人押す膝頭
鯛提げてゆく大雪の三鷹駅
黴を噴く八幡太郎の幟旗
自然薯を掘りたる穴に足入れて
私も昭和六十三年に『虎刈』を出したので、約十九年間句集を出していない。膨大な作業が待っている。
雷魚72号から
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